ザ・ライフ・オブ・ワタシ

平凡の中の華やかを

2023.07.21

 あまり愉快な朝ではなかった。

 夏風邪をこじらせてしまい痰が絡むし、当日の朝になって恋人に「今日は夜ご飯いらない」と言われるし、いつもは家を出たところですれ違うはずの小学生たちに今日は一人も出会わず、つい自分の腕時計を疑ってしまうし。

 早いもので、もうすぐで東京に越してきて4ヵ月。春休みの時期にやってきて、夏休みに突入した。夏休みと言っても会社員の私は変わらず仕事をせねばならんし、ただ朝すれ違う小学生の集団に会わなくなるだけなのだが、こういうところにも季節を感じて少し嬉しくなる。

 満員電車のなか、新しく出た曲を色々と聴いてみる。金曜日の習慣。特に今週はEthel Cain「Famous Last Words (An Ode to Eaters)」がよかった。年始に観た『ボーンズ・アンド・オール』がテーマになっているらしい。ちなみに今日は待ちに待った『Barbie The Album』のリリース日でもあるが、こちらは落ち着いて聴けるタイミングまで取っておく。

 風邪で声が出づらいと、出社して第一声の「おはようございます」にとても緊張する。痰が絡んだ声で言うのも恥ずかしいので、エレベーターを降りる前に軽く咳払いし、ウォーミングアップしてから「おはようございます」に臨む。

 今の職場では週に1度ほど、銀行に行くために外出することがある。普段は自転車を使うのだが、雨が降りそうな日は15分ほど歩いて向かう。やや罪悪感はあるものの、会社を抜け出してイヤホンで音楽を聴きながら歩く往復30分はお得な気分。そんなこともあり、最近では天気予報に雨マークを見つけると、嬉々として歩いて銀行に向かうようにしていた。今日は降水確率30%。悩みどころだが、仕事が立て込んでいたこともあり、自転車に跨って向かう。途中で郵便局に立ち寄り、友人に借りたままだった蔡明亮のDVDボックスを彼のアパートに送る。本来の用事を済ませて自転車を漕いでいると、あと少しで会社というところで雨に降られる。公私混同で郵便局に寄った罰かも。

 珍しく少し残業して帰ろうとすると、エレベーターで自分より1つ下の先輩社員・Oさんと鉢合わせる。そのまま雑談をしながら駅に向かうと、別れ際に「まだまだ夜は長いです。華金楽しみましょう!」と言われる。特に予定もない自分は「ハハ」と変なはにかみ顔で応えてしまった。絶対に不自然な笑顔だったよなと落ち込みながら、彼と別の方向の電車に乗り込む。

 最寄り駅まで数駅というところで席に座れたので、サリンジャーの『ナイン・ストーリーズ』を開く。昨年の春に「美殿町本通り」で買ってから積読状態だったやつ。1話目の「バナナフィッシュ日和(A Perfect Day for Banana Fish)」をあと少しで読み終わる、というところで最寄り駅に着いてしまう。どうせあと2~3ページなのだし、ホームのベンチに座って最後まで読むことも考えたが、要らぬ自意識が勝る。駅を出てからも、どこか座れる場所がないものかと文庫本に人差し指を挟んだまま商店街をうろつくが、諦める。

 家に帰る前に夜ご飯の買い出しをする。ランチに唐揚げ定食を食べたのもあって夜は健康志向で行きたいと思う自分と、一人の為にちゃんと料理をするのも面倒だと思う自分が闘っている。そういえば数日前から餃子が食べたいと思っていたのでかごに冷凍の餃子を入れるが、思い直してレトルトのハヤシライスを買う。正直大差ないが餃子よりはやや健康的なのでは…と苦し紛れにベビーリーフもレジに持っていく。

 自宅に戻り、レトルトのハヤシライスを温めているうちにAmazonHARIOのフィルターインボトルを注文する。実家にいた頃から長らく使っていたが、先日自分の不注意で割ってしまったので新しいものを買った。夏はやっぱり冷えたお茶が飲みたくなるし、このボトルなしで2~3ヵ月過ごしてみて、やっぱり自分の生活には必要だという判断に至った。映画1回1,900円はすぐ観に行くのに、ほぼ同じ値段のボトルを買うのに数ヶ月要するのはなぜ。

 ハヤシライスをかき込んだ後に、読みかけだったサリンジャーの続きを読む。登場人物のシーモアが唐突に自死を選び、呆気にとられる。何の前触れもなく、と思ったが前触れはその文章の節々に隠れていたのだと気づく。最近は『走れ、絶望に追いつかれない速さで』や『サマーフィーリング』、あとは安藤裕子「歩く」や阿部芙蓉美その街のこども」など、人の死を感じる作品に意識的にも無意識的にも触れる機会が多い。

 久々にブログを更新したくなったはいいが、なかなかあの頃の感覚が取り戻せず時間を食ってしまったし、とっても冗長な記事になってしまった。長いはずの華金も気づいたらあと10分。Oさんは今ごろ華金楽しんでいるのだろうか。