5月24日(土)から27日(火)まで、オーストラリアはシドニーへ旅行をしてきた。片道10時間半、実質滞在時間は約2.5日のショートトリップである。
これまで旅行をしてもなかなか記録をつけることが少なかったのだが、せっかくのオセアニア!たまにはブログでも更新してみる。
そもそもの旅の目的はAnohni and the Johnsonのコンサート。パートナーも自分も彼女たちの音楽を好んで聴いていて、ツアー日程が出るたびに「またアメリカか」「またヨーロッパか」と落胆していた。そんな彼女たちがオーストラリアで公演をするニュースがあったのは2月末。発売日はアナウンス翌日というスピード感、ややメルカトル図法に騙された形で「オーストラリアなら近いのでは?」と意気揚々とチケットを購入したものの、片道10時間半もかかる距離だと知ったのはその後だった。
実は、オーストラリアに行くのは2回目。通っていた高校がブリスベンの高校と提携を結んでおり、夏の交換プログラムで1週間半ほどホームステイしながら現地の高校へ通ったことがあった。10年前、私にとって初めての海外渡航はオーストラリアだったのだ。
……と言ってももう10年になるし、スケジュールに自由もなかったのであまり覚えていることはない。毎晩のように連れて行かれたHillsong Church、サングラスがないと目が痛くなる夏の日差し、ホストマザーがくれた冷凍ミートパイの美味しさ、通じない「シーディー(シーじゃない、スィー)」。
そして、なんと言っても今回はパートナーとの初めての海外旅行!いわゆる「成田離婚」なんて言葉があるくらい、パートナーとの海外滞在にはトラブルがつきものというが、いかほどのものなのか。また、彼は私の英会話力を買い被っているところがあるので、それがバレてしまうのではないかという恐怖も感じながらの旅行だった。結果、前者はみんなの言う通りで、後者は杞憂に終わった気がする。
5月24日(土)
朝6時55分の便に乗るため、早朝4時にアパートにタクシーを呼び、羽田空港まで向かう。これまで定額料金というものの存在を知らず、その便利さに感動!2人で割れば電車との差額を考えても、昼の便で行くより安いし、何より現地で遊べる時間が増える。タクシーを電話で配車したときの「5分以上遅れると通常料金になりますのでご注意ください」という言葉が恐ろしく、マイペースなパートナーをなんとか急かす。
羽田空港には少し早く着きすぎてしまった。私のせっかちさをパートナーに揶揄されながらも、なんだかんだですぐ搭乗時刻に。初めてのカンタス航空!出発時刻は遅れたものの、定刻通り18時にシドニー国際空港に到着。10時間半のフライトは内田樹『新版 映画の構造分析』を読んだり(読み終えた!)、ZINEに向けた文章を書いたり、うつらうつらしたりしていたら案外早く過ぎた。高揚感もその速さに一役買ってくれたのだと思う。

機内でペンを借りて入国カードもバッチリ記入。入国審査を華麗にすり抜けたものの、カルーセルで長めの足止めを食らい、さあ検疫を抜けましょうというところでパートナーが「入国カードがない」と騒ぎ出す。結局再度書き直し、ようやく空港へ(後でポケットから出てきた)。せっかちな私は急いでシティーの方へ行きたい気持ちだが、彼は半日吸えていない煙草を吸いに一旦外へ。
プチトラブルはありつつも、ようやく空港を抜け、ホテルのあるCircular Quay駅まで電車に揺られる。Opal Cardという交通系ICを事前に作っておくとよいと聞いていたのだが、改札までのエスカレーターにしきりに「クレジットでも乗車できます」と書かれていたので、試しにタッチしてみると行けた。なんだ!いらないじゃん、Opal Card!
そうして電車に乗っていたところ、Central Station直前で電車が停車。せっかちの私に追い討ち。車掌さんの強めなAussie Englishに辟易しながらも、そのアナウンスの陽気さにワクワクした。向かいのに座っていた家族連れの赤ちゃんも可愛いくて少し癒される。電車が動くのを待つ約15分間で自然と生まれる乗客同士の会話を羨ましく眺めていると、「あと数分で動き出すので……ほら、動きました!」と嬉しそうなアナウンスが。通常であれば2〜30分、シドニーの空港は街から近くてありがたい。
今回はSydney Harbour Marriott Hotel at Circular Quayに滞在。そう、マリオットである!思った以上に宿泊費が安く、まったく身の丈に合わないブランドホテルへの宿泊を決めた。せっかくなら泊まってみたいじゃんね、マリオット。部屋に着いてみると存外に設備が古い印象だったが「まあ安いしね…」「寝るだけだしね…」と自分に言い聞かせつつ、マリオットブランドを堪能する間もなく今夜の目的地へ。
Circular Quay駅周辺ではVivid Sydneyというイベントが開催されており、特に海沿いのエリアは活気がある。とは言え渋谷や新宿の喧騒を思えば可愛いもので、肩がぶつかるようなことはないのだが。Opera HouseやHarbour Bridgeなどがライトアップされ、エリア全体がインスタ映えする世界観に。というかコンサートもこのイベントの一環で行われているものだったので、このイベントなしでは私たちはここには来ていないのである。
…ということまでは知っていたのだが、まさか初めてのOpera Houseが駅のホームから見るものだとは思わなかった。実はHarbour BridgeとOpera Houseを同時に眺められる一等地?乗りたかった電車を逃してやや焦りながらも、なすすべもない。次の電車が来るまでの約15分間の暇をホームから見えるライトアップを眺めて潰す。

Erskeneville駅に到着。Xのシドニー在住のフォロワーさんにおすすめされたThe Imperial Erskenevilleというパブに向かう。20時半で予約を入れていたが、電車が遅れたりでバタバタしてしまい、10分ほど遅れて入店。こういうときに海外通話ができず不便。無連絡での遅刻は申し訳ない(パートナーにWhatsAppを入れておけば連絡できると言われたが、そういうものなのか?)。
シドニー中心部の駅から数駅とは思えないほど郊外っぽさの強い路地を歩き、ようやく辿り着く。ドアを開けると早速聞こえるのはParis Hilton「Stars Are Blind」。\正解だ!やったー!/ Kim Petras似の店員さんに予約していた旨を伝えると、もう既にテーブルが別の人に使われているようで、改めて別のテーブルをセットしてもらう。ごめんなさいー。
それにしてもここは、なんだか陽気な雰囲気である。天井にはミラーボール、老若男女、人種も問わず色々な人が楽しそうにしていて、なんだか途轍もないポジティビティを感じる。流れている音楽は2000〜2010年代のポップヒッツ。ドラァグショーが見れる場所とは聞いていたが、特にセクシュアリティは限定されていない…というか、セクシュアルマイノリティが社会的にマイノリティでなくなりつつあることが体感として分かる。真にSOGIを問わない空間、全てが混ぜ込ぜな感じ。選曲もBritney Spears「Gimme More」(ゲイクラブの定番)が流れたかと思えばTaio Cruz「Dynamite」(cheesyだが確かにみんなが聴いていた往年のヒット曲)が流れたりと節操がない。
ドリンクはバーカウンターで、フードは座席からQRコードで注文。人参のフムスと、カリフラワーのステーキというものがあったので注文した。
そういえば社会人になってからのここ数年で、これまでの人生の倍くらいの食べ物を知った気がする。実家にいたころは月に1度の贅沢(サイゼリヤのことである)以外ほとんど外食することがなかったので、テーブルマナーから食材の名前まで知らないことばかりだった(留学中、ナイフとフォークがまともに使えず別の日本人留学生をドン引きさせた)。数年前の自分だったらフムスがなんのことかさっぱりだったに違いない。でも今は知っている。これは、ひよこ豆のペーストですよ。
テーブルに差し出された食べ物のポーションの大きさに慄きながら、そして海外に着いたばかりでまだやや緊張しながら(アジアを飛び出たのは2020年以来5年ぶりだ!)ちびちびと食べ進めていると、隣のテーブルのご婦人に声をかけられる。あ、さっきMadonna「Express Youreslf」に合わせて、見知らぬ女性とノリノリで踊っていた人だ。カリフラワーを指さして「〜〜〜?」と聞かれるも、音楽は大きいわ私のリスニング力は足りないわで何を言っているかいまいち分からず。「カリフラワーです~!」と答えたけど、今ならソースを聞かれていたのだということがなんとなく分かる。がーん。なんか「sauce」って言ってた気がするし、ご婦人もあんまり納得いかない顔してたし。ザクロ(pomegranateと言うらしい。今知りました)のソースです。正解はcauliflowerではなく、pomegranate sauceでした。
毎週土曜日はPriscilla Nightというイベントが開催される日だった。というのも、あのオーストラリアを代表するクィア映画『プリシラ』の撮影地になったのがまさにここThe Imperial Erskinevilleだからである。…ということが分かっていながら映画を再鑑賞しなかった自分が憎い。内容を全然覚えてなかったから。後からでも早めに見返さなければならない。「ここ、行きました〜!」というドヤ感を後追いで体感するのだ。
時間になるとどこからともなくドラァグクイーンたちが登場、CeCe Peniston「Finally」に乗せてリップシンク。これは私も知ってます!まさに『プリシラ』じゃないですか!

各回15分程度のショーでは手を挙げたオーディエンスも巻き込みながら、インタラクティブなパフォーマンスが繰り広げられる。なんともピースフルな空間で、その年齢層の高さも嬉しかった。大人になってもこうやって楽しむことができるよ!というのを彼らが体現している。
てか。カクテルって本当に頼みづらい。あのおしゃれなグラスで出てくると「カッコつけてます」感があって恥ずかしいからだ。誰も見ていないことなんて分かっているのだけど、メニューにどんなグラスか書いてあると助かる。ロンググラスさいこー。Cosmopolitanというカクテルを頼むと、あの平べったい宇宙船のようなガラスで提供され「やっちまった」という気持ちになった。どんな味かもあまり覚えてない。飲み干して、テーブルからフロアの方へ移動。
このThe Imperial Erskeneville、地下はクラブのようなフロアになっている。この日は「Pink Pony Club」というイベントが開催されていて、10時半ごろ、こちらにも入ってみることに。

上のパブからは年齢層がグッと下がり、20代前半らしい人たちでフロアは溢れていた。いつの間にこんなに人が!まだ空いていると思っていた。Charli xcx、Lady Gaga、Sabrina Carpenter、そしてもちろんChappell Roan。日本ではまだ知名度の高くないChapplellだが、オーストラリアでは他の多くの国と同様、既に熱狂的な人気を獲得しているようである。「Pink Pony Club」で揺れるフロアは壮観。そしてなぜかOne Directionまで流れていて、これはもう20代半ばになってしまった私たちが密かに楽しめる秘密の場所。…なんて海外旅行中だから言えるけど、二丁目で流れていたら神妙な顔をしてしまうこと間違いなしではある。ちなみにイベントページにCaroline PolachekとかKim Petrasとか書いてあったのですが、それはもっと夜が深くなってからかな…。パートナーが選曲を気に入らなかったようで不機嫌気味なので早めに帰る。
12時ごろにホテル着。正直まだまだ遊べる心持ちだったが、次の日のために早めに眠る。
5月25日(日)
パートナーが起きてこない。おい、朝ご飯を外で食べるのではなかったか。洒落たカフェでコーヒーでも啜るのではなかったか。昨晩までは、Aussie気取りで朝活なんてしちゃう気満々だったじゃないか。
起こそうとしてもむにゃむにゃ言うばかり、10時を回ったところでさすがに限界が来たので、イライラしながらも先にホテルを出て街を散策。彼がFive Guysをトライしてみたいと言うので(私は去年韓国で食べたけど、アレならいつでもウェルカム)、11時過ぎに店で落ち合うことに。
街散策では、観光客でごった返すCircular Quayエリアから、ショッピングに最適な渋谷のような街、市役所エリアまでを歩いてみた。途中、懐かしのJB Hi-Fiを見つけたので入ってみる。家電量販店でありながら、CDやDVD、本などエンタメも充実しているお店で、10年前にブリスベンに行ったときもここで何枚かCDを買った覚えがある。そう、10年間、やっていることが変わっていないのである。
正直、まだ「オーストラリアに来た!」という実感がなかったのだが、Delta GoodremやDami Im、Jessica Mauboyなどオーストラリア産DIVAたちのCDやレコードが並んでいる風景を見て、ようやく自分は今シドニーにいるのだなあという気持ちが湧いてきた。棚にはBritney Spearsの自伝『The Woman in Me』があり、ついつい手に取ってしまう。お買い上げです(このあと地元の友人用にもう1冊買った。彼が店長をしているカフェの本棚に置いてあるらしい)。

その後もWoolworthsという大きめなスーパーに寄って柚木麻子さんがストーリーに載せていたButter Mentholを買ったり、紀伊國屋シドニー店にパッと寄ってみたり(柚木麻子さんの『BUTTER』が平積みされていた。その後も、同じ時期にシドニーに来ていた柚木さんの影を感じながら旅を続けることとなる)。紀伊國屋ではBritneyの本を持っていたせいでセキュリティの人に呼び止められて緊張。弁明してJB Hi-Fiの値札のついた本を見せたらすぐ納得してくれた。そういえばシドニーは、ある程度の規模の小売店や飲み屋であれば、必ずと言っていいほどセキュリティーが立っている。治安はかなりいいように見受けられるが、万引きなどの軽犯罪は多いのだろうか、それとも雇用の創出的な面があるのだろうか。
そうこうしているうちに時間が来たので、Five Guysへ向かう。Five Guysをはじめて食べたのは、留学先だったイギリス・ニューカッスルでだ。マクドナルドやタコベルに比べると高価なそのバーガーは時たまの贅沢品。当時仲良くしていた男の子の家に遊びに行くと時々Uberで頼んでくれて嬉しかったのもいい思い出である(年下の男性に奢らせていい身分である)。昨年の春にはじめてソウルに行ったのだが、ちょうどFive Guysが韓国初上陸して間もない時期で、現地のミーハーな客に混ざって並んで食べた。
Five Guysではベースとなるバーガーを選んだあとにトッピングをカスタマイズすることができるのだが、いつも正解が分からず「All the Way」(全部乗せ)を選んで必死に食べていた。今回は店員さんに「このAll the Wayにしたら多すぎますか?」と聞いてみたところ、「そんなことないと思います、All the Wayが1番ポピュラーだし」と言われる。そうなんですね、これからは自信満々でAll the Wayと言えます。「3ドルでパテを増やせますがどうしますか?」と聞かれるも「あんなにでかいバーガーに更にパテを?正気か?」という気持ちで断る。
そう、私、ハンバーガーが本当に大好きなんです。旅行先で名物でもないバーガーチェーンに行くくらいには好きです。ここのハンバーガーはShake Shackと同様、肉っぽさがすごくあるし、どこのバーガーよりもジューシー。数あるトッピングの中でもマッシュルームが入ったいるところが個人的ポイントです。おいしいんだこれが!あとはべとべとのアルミホイルで包まれたハンバーガーのジャンキーさ!ポテトは紙袋のなかの紙コップに突っ込まれているが、ほとんど溢れ落ちている。その雑さもアメリカンな感じがしてよい。隣で韓国語を話している男女がバーガーとポテトを難なくフィニッシュしているのを見ると、ソウルにFive Guysができたのも納得がいった。韓国も食事のポーション大きくないですか?日本にもできて欲しいけど、このサイズ感と価格設定は受けないような気もします。…と思ったら今年東京にできるらしい。嬉しい!!!!しばらくは並ぶだろうけど、落ち着いたら行きたい。価格帯も日本の物価に合わせてやや安めにならないかなあと期待します。無理か。
パートナーと話していて思ったのだが、シドニーにいる人たちは機嫌がいい。日本やヨーロッパのようにムスッとして歩いている人がほとんどいない。恐らく、ムスッとすることで手に入る鎧の脆弱さにみんな気づいているのである。それに、あまりにも多くの文化が入り混じるこの街で生きるには、寛容でいないとどうにかなってしまうに違いない。というのは2.5日しかシドニーにいなかった日本人の感想でしかないが。いや、でも、日本はもう人の揚げ足を取って、人の足を引き摺ってばかりの国、自己責任の国になってしまったと思う。街にあるゴミ箱やベンチの数、ホームレスの人と気軽に会話する人の数にそう思う。

Five Guysを退店後、15分ほど歩いて13時にはGolden Age Cinema & Barへ到着。1階はオープンテラス式でやや無機質な内装のおしゃれなカフェ、2階はベーカリーで、地下にあるのがこの映画館兼バーだ。昨年、台湾旅行中に現地の映画館で『鬼才之道』を観て以来、海外の映画館はできれば行っておきたい私。今回はスケジュールに合う中から、英語字幕が付いているマシュー・ランキン『ユニバーサル・ランゲージ』を選んで鑑賞することにした。あらすじはこうだ。
雪が積もる街に、複数の人物が交差する。少女は厚い氷の中に閉じ込められたお札を手に入れるべく奔走する。少年はメガネを七面鳥に奪われたと訴える。つまらない役所仕事を辞めたマシューは、母に会うための謎めいた旅に出る。イランとカナダが繋がる不思議な地にて、シュールで奇妙なエピソードが絶妙に絡み合う。独自の世界観と映像センスで魅了する実験映画出身のマシュー・ランキン監督による長編第2作にして、米アカデミー賞のカナダ代表作品。
カンヌ監督週間 in Tokio 2024 紹介文より
ウェス・アンダーソン(観たことないけど)に通ずる、神経質と言ってもいいほどの画作りへのこだわりと、アッバス・キアロスタミの子ども映画らしい悪戯っぽさ、ギデンズ・コー作品のようなたっぷりの人間愛とブラックジョーク。ちりぢりの挿話が一気に重なり回収されるラストまでずっと面白い。さすがに日本語字幕で観るのとは違い100%内容を理解できたかと言われると自信はないけれど、それでもとても素晴らしい作品だった。
昨年末に「カンヌ監督週間 in Tokio 2024」で上映されていたのは知っていたが、クロックワークスが上映権を取得、ちょうど先日、8月末に一般公開されることが発表された。ムビチケ特典のウィニペグ観光マップも欲しいので必ずまた観に行くこととする。
press.moviewalker.jp
さて、この映画館にはバーが併設されているので、映画の途中にカウンターへ行ってドリンクを追加する観客も。2列前ではレズビアンカップルがいちゃついているし、本当に自由な空間である。楽しい場であると同時に、日本のミニシアターがどれだけ集中して映画を楽しめる空間であるかも思い知らされる。ただ、ここで聞こえる観客の笑い声は、日本のミニシアターでたまに聞こえる笑いとは何か本質的に違う嫌味のなさ、豪快さ……これは私の偏見なのか、それとも日本のミニシアター笑いに何か別のものが混じっているからなのか。ハハァ、私はこの作品の面白さを理解していますよ。ハハァ、私はここにいますよ。ハハァ、ハハハ。
「あーいい体験をした!」と浮かれながら映画館を後にし、次の目的地へ歩き出す。映画のチラシも貰えて満足満足、とチラシを探したときに気がついた。Britneyの自伝とチラシを入れたJB Hi-Fiの紙袋がない。座席に置き忘れたんだ…!パートナーが路上喫煙(シドニーはどうやらOKなようである)している間に走って映画館へ。「あのー、座席に荷物を忘れたみたいで~」と言うと、「JB Hi-Fi bag?」と聞かれてやや恥ずかしい。あんなおしゃれな映画館にJB Hi-Fiの紙袋、それも中身はBritney Spearsの自伝である。その上、15ドルに値引きされたやつである。サンキューしてそそくさとその場をあとにする。
次の目的地はCarriageworksで開催されているSydney Writer’s Festival。この週のシドニーはVivid Sydneyに加えて、こんな私好みなイベントまで開催されていたのである!元々車の整備工場だったというそのスペースは、いくつもの建物がぎゅっとくっついたような形。それぞれの区画に分けてイベント開催できたりもするのだろうか。幕張メッセみたいに。
柚木麻子さん(このイベントのためにシドニーに来ていた)やPlestia Alaqadさんら世界的に著名な作家・ジャーナリストたちも来場していて、事前にチケットを買えばトークを聞くこともできたらしいのだが、迷っているうちに目ぼしいものはすべてソールド。イベント参加せずとも楽しめるのかどうか怪しいまま向かった。
結果は:うーん、これは…チケットを買った方がよかった。チケットがない人ができることと言えば、無料でやっているトーク(そのときは『ミステリー小説を書くための○つのtips』みたいなやつだった)とフードトラック、そして平積みにされている本を眺めたり買ったりするくらいしかやることがなかった。するするする〜と会場を見渡して、「まいっか」とその場を後にする。
そこから歩いてThe Pie Tin Newtownに移動。「オーストラリアといえばミートパイ」という極個人的な連想ゲームを頼りにパイ屋さんを探したのだった。到着した煉瓦造りのお店、奥の方ではパン屋さんみたく生地を捏ねたりなんなりしているのが見える。
私はもちろんミートパイを注文。あと喉が渇いたのでダイエットコーラ。彼はクランベリーのパイを食べていた気がする。やっぱりオーストラリアは何でもかんでも本当にポーションがデカい。隣に座った現地の人らしき若者たちはパイを手掴みでガツガツ食べ進め、ものの数分で食べ終えていた。尊敬の眼差し。

中世っぽい絵画にパイ投げ。
旅行中は体力レベルが限界突破する自分でも、さすがに疲れたのでホテルに戻って1時間ほど休憩。なんといっても、夜はSydney Opera House内のJoan Sutherland TheatreというホールでRavyn Lenaeのライブがあるのだ。パートナーはチケット代と行きたさを天秤にかけた結果「行かない」とのことだったので1人で向かう(私の人生のルール:お金は後からついてくるので、ちょっとでもやりたいことはやっておいた方がいい)。うおー、初オペラハウスはソロ参加です。
ホテルからOpera Houseまでは徒歩15分くらい。ライトアップされ、フェスティブな雰囲気の海沿いをずんずん歩く。シドニー2日目の夜にして初めてOpera Houseを目の前にした。建築とか分からないので正直大した感動はないのだが、それでも「ああ、これがあの」みたいな気持ちにはなった。ミーハーなんですよね。

会場に着くと、まずはその華やかさに唖然。来ている観客もそうだし、内装も赤いカーペットが敷いてあってとびきりシックな感じだ。Katsuya isn't in the place to beです、助けてください。予定を少し遅れて開場すると、向かうは2回目2列目ど真ん中!買うかどうか迷っていたら1階前方が埋まってしまった。優柔不断はほんとうによくない。
座席に座るとしばらくして、右隣にはすぐ同性カップルと分かる男性2人、左隣にはインド系のファミリーがやって来た。オペラハウスというだけに少し緊張していたが、多様なメンバーで安心。座席数は約1,500席とインティメイトな空間。こんな場所で、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのRavynを観ることができるなんて。何とラッキー!
Ravyn Lenaeが登場するやいなや、オーディエンスのパワーに圧倒された。これが海外で観るライブ!数年ぶりのこの感じ。そして何より彼女、めちゃくちゃ歌が上手い!これまで生で観てその歌唱力に感動したのはCaroline PolachekとKylie Minogueなのだが、彼女たちに匹敵するものだった。音を外すこともなければ、R&Bシンガーらしいフェイクも難なくこなす。R&Bシンガーの海外公演ならオケを流してシンガー1人でもよさそうなものを、彼女の「インディーR&B」的サウンドに合わせるようにギタリストとドラマーも参加していて、よりリッチなサウンドのライブを楽しめた。

…実はSydney Opera Houseと言えばその知名度に反して残念な音響設備で悪名高かったそう。しかしそれも数年前の改装工事で改善、特にこの2階2列目中央という座席がよかったのか、これまで観たコンサートの中でも群を抜いて音響がよく感じた。いわゆる「マイク乗り」のよい声であったのもあるかもしれないが。2階でバランスの取れた音を聴くのもいいが、1階で周りの観客と一緒になってはしゃぐのも楽しそうだったなあ。ないものねだりをしてしまう。
「1 of 1」から始まった公演、「Sticky」や「Skin Tight」といった人気曲を挟み、後半には父親への割り切れない気持ちを歌う「One Wish」を披露する。
父親についての楽曲といえば、私はJASMINEの「sad to say」に父親への怒りをぶつけて聞いていたのだけど、年を取り当時の彼の年齢に徐々に近づくにつれ、理解をしようとしたり、理解ができなくても許そうとしたり……まだまだ折り合いは全くついていないけど、20代前半の頃まで抱いていた強い怒りの感情とは違ったものを感じている。そんな葛藤は楽曲のなかでRavynが歌っている通りで、久しぶりに「自分の歌に出会えた」と思った。失望や悲しみの記憶は消すことができない。だからこそ、自分の中で落とし所を探し続けるしかない。喋らない壁を相手に(しばしば憎しみの)ボールを投げ続けることは、たぶん誰のためにもならない。Ravynはそんな中で当時の父の想いに想像を巡らせ、それをChildish Gambinoの優しい優しいボーカルに託す。その作業は当時子供だった彼女、そして私たちにとって必要な作業なのだ。物語を語り直すこと。特権側による侵略戦略としての物語の修正とは対照的なものー個人的な葛藤からの生存戦略として機能するストーリーテリングがここにある。
「あなたを許せない/どれだけ頑張ってみても/あなたを忘れられないし/嫌いにもなれない/努力してみたとしても/ただ装うだけで」(「One Wish」)
非常にシンプルな言葉遣いながら、いや、だからこそ、彼女の抱えていかなければならないトラウマとあたたかい思い出は色を帯びてリスナーに届けられる。そしてこれは幼少期に同じようなつまずきを経験した者たちに必ず共鳴する。そんなことを考えていたら涙が止まらなくなってしまった。
途中のMCで「2019年に一度シドニーで公演をした際、プライベートの時間でオペラハウスに来た。その時に『次にシドニーに来るときはここで公演するんだ』と思った」ということを語ると、オーディエンスから大きな大きな声援が送られる。既に今年の1曲になること間違いなしの大ヒットに恵まれた彼女は、この会場ですらプレミアムチケット化してしまうくらいの人気だ。決めたことを成し遂げていく彼女の成功をもっともっと見たい。
最後、アンコールに応えて披露したのはもちろん「Love Me Not」。その夜で1番の大盛り上がりとなったこのナンバーで、2階席の観客もようやく全員立ち上がって踊った。本当に楽しい夜だった。
Ravyn Lenaeのライブが終わるとパートナーに連絡。このあとはイカしたクラブイベントに行くんです。短い旅ですから。せめて夜は予定を詰めますよ!
そのイベントはなんとオペラハウス内のStudioという施設で開催。House of Minceというシドニーのクィアなコレクティブが、ベルリンからトップDJであるBorisを招いて開催したイベントだ。あのベルグハインでもDJを務める大物である。
オペラハウスという会場の都合上、イベントのテーマに反して公演時間は18時から24時。既に盛り上がっているであろうフロアへとドアを開けてみると、目の前に広がるのは裸、裸、裸。上裸の屈強な男性たちが絡み合っている。うおーーー、映画とかで観るやつ。しっかり怯えながらも四つ打ちに乗ろうとして、あまりにも不自然。高校時代、生物の先生が「運動神経なんて存在しないんですよ、そんな神経は!」と言っていた記憶があるがある。私には、運動神経がない。
5月26日(月)
実質最終日の今日。今日こそは朝ごはんを食べてやると、不機嫌なパートナーをなんとかホテルから引き摺り出し、Three Beansというカフェに。後で調べたらどうやらチェーン店らしい。Egg on Toastのメニューにトッピングでハルーミチーズを乗せてもらった。このハルーミチーズも、私がここ数年で覚えた食材のひとつである。パートナーに言わせると「さけるチーズっぽい」このチーズは、羊と山羊のミルクを混ぜて作られたチーズらしい。確かにさけるチーズっぽい弾力、しこしことした感じがあってうまい。あまり日本で見かけたことがないのは私が行く店のセレクトのせいなのかどうなのか…いずれにせよ、日本ではそこまでポピュラーではないチーズな気がする。KALDIで安くない値段で買えるのだが、せっかくならお店で食べれるようにしてほしい。

途中、JB Hi-Fiにパートナーを連れて行く。壁に手作り感あふれる『brat』のコーナーがあって面白かった。セキュリティの人に「bratってみんな面白がって写真撮ったりしてるけど結局なんなの?」と聞かれて答えに窮した。だってこれは…「いや、アルバムの名前なんですけど、みんなbratって結局何かはわかってなくて、bratはbratなんです」…答えになっていない。

その後は紀伊國屋書店シドニー店に再訪(前日と同じルート)。前日は時間がない中だったが、改めてゆっくり回ってみるとアート本や映画本が充実している。棚を見渡すとDavid Cronenbergについてのモノグラフ『Clinical Trials』を発見。元々LetterboxdのInstagramで観て気になっていたのだが、実物を目の前にしてしまうと買わずにはいられず、パートナーと1冊ずつ購入。とんだ観光客である。

この書店は美術系の本に注力しているようで、アート本選用の案内カウンターまであった。このあともう少し映画本コーナーを散策、フェミニスト視点からのロマコメ映画ガイド(『I Love Romcoms and I Am a Feminist: A Manifesto in 100 Romcoms』)と、クィア映画ガイド(『The Queer Film Guide: 100 Great Movies that Tell LGBTQIA+ Stories』)も併せて購入。家に読んでいない本ばかりが増えている自覚はあるんだけど、仕方ない。日本ではなかなか買えないですからね。
シドニーにはアジア系の移民が多くいること、そもそも日系の書店であることもあり、Japanese BooksやChinese Booksのコーナーもあった。朝井リョウ『生殖記』が平積みにされていたり、日本のファッション誌が販売されていたり、この書店が移民の心の拠り所になっていることが想像できた(ただしどれも値段は日本の2~3倍だったが)図書館なり本屋なり、本のある場所は文字通り人の居場所、拠り所になり得る。
ハードカバーの本を3冊、しかもクローネンバーグの本はかなりのサイズ感。腕がだるすぎるが、もう少しだけ頑張ってWoolsworthに戻ってきた。今日はパートナーとゆっくり店内を回る。コアラやワラビーの形をしたDairy Milkチョコレートや、ベジマイトなどを購入。観光客丸出しのチョイス!もう腕がちぎれそうである。
ヘトヘトになりながらホテルに帰着。この時点で13時くらい。まだまだ動き足りないので、ホテルを出てすぐそばのThe Rocks地域にあるシドニー現代美術館へ。

チケットカウンターにいる男性に「一般1枚で〜」と声をかけたところ、その胸に「日本語できます」のバッジを発見。嬉しい!「わ、日本語ですね!東京から来ました!」と聞かれてもいないのに自己紹介をし、二言三言やりとりするも、列が並んでいたのでそのまま入場した。ほんの1、2日日本語が聞こえない環境に居ただけで日本語を恋しく思うなんて馬鹿げた話である。
美術館内ではWarraba Weatherallという現地の作家による展示が興味深かった。先住民の剥奪されてきた語りを取り戻すような展示。彼らの文化や資産、歴史がいかに公的機関をはじめとする権力側から搾取されてきたか、「研究対象」として収集され、語られてきたかを示す。
この人の作品は「ではない側」からの語りによって歴史を語り直そうとする。昨年フィルメックスで観た『ダホメ』にも通ずるテーマだと思いながら観た(と思ったら、美術館のHPに『ダホメ』の上映があったと書いてある!びっくり)。先日、東京大学がハワイ先住民の遺骨を本来持っている人達に返還、その際の東大側の人権意識の低さに先住民側の交渉役が苦言を呈したニュースを見たが、まさにこうしたアカデミック側・公的機関側の驕傲な態度を痛烈に批判する展示。「美術館やアーカイブという知的空間において、展示物は武器になり得る」というキャプションも頷きながら読んだ。Ravyn Lenae「One Wish」で行われていたことが個人史の語り直しだとすれば、この展示では集団史の語り直しが行われている。それはどちらも当事者にとって非常に大切なことだ。
私たちは何かを語るとき、常に物語に頼るしかない。事実を事実のまま、澱みなく他者に伝えることはできない。というのは行きの飛行機で読んだ内田樹の本にも書いてあったことだが、それは「歴史」を語るときに顕著に表出する。あらゆる覇権的な歴史認識は勝者の歴史であり、彼らにとって都合のいいように作られている。ある確たる事実として起こったことについて複数の語り口が存在し、それによって同じものに対する個々の認識が食い違う。それが争いの元になっていることは少なくないだろう。特に、情報が氾濫し「分かりやすさ」「タイムパフォーマンス」が求められる現代において、その「物語」の持つ力の強さは必要以上に大きくなってしまっているのではないだろうか。
20ドル払った割に意外とコンパクトな空間で、次もあるので1時間ほどで退出。2〜30分ほど歩いてニュー・サウス・ウェールズ州立美術館に。途中で通過した州立図書館の豪華さに戦慄しながら、時間もないのでまっすぐ美術館に向かった。閉館時間17時、このとき15時半。美術館に足を踏み入れてすぐに気づいた。「時間が、足りませんが(爆笑)」。しかも無料。私、無料ってだいすきです。
てか。今更ですけど、オーストラリア、あまりにもイギリスの影響を色濃く感じる。"オーストラリアらしさ"が分からなくなるほど、地名や建築にイギリスの影を感じる。かつては植民地として、今もコモンウェルス(すげえ名前だよ本当に)の一員として深い関係を保っているので当然なのだが、それにしても。とは言え、天気が急変することもなかったし、上に書いたように、何より人々が気取らず温かい。これが植民する側/される側の違いなのか、どんな理由があるのかは分からないけど、私好きです、シドニー。そしてこの美術館も例に漏れず、イギリスらしい古典主義的な趣き。

時間がないことは明白なので、できるだけ興味があるゾーンを狙う。興味があるというのは、現代美術ということです。1階の奥の方にフランシス・ベーコンの作品を見つけて興奮。ベーコンと言えば、ダニエル・クレイグ主演の映画『愛の悪魔』が思い出されますが、まさにその主人公であるジョージ・ダイアーにも触れられていた(とは言え、「恋人の死にショックを受け〜」みたいなことだったが)。紀伊國屋同様、この美術館にも東アジアの美術のコーナーがあり、その一角では李禹煥の特別展示が行われている。現代中国のビデオアートに日本の古典など、様々な角度から切り取った「東アジア」の断片がそこかしこに。私たちはオセアニアから見たら同じコーナーに入れられるんですよ、いいですか。
そして何より、地下階の奥の方、スー・ウィリアムソンという南アフリカ出身のフォトグラファー/アクティヴィストの撮影した女性たちの眼差しに射抜かれた。闘っているものたちの持つ強さと包容力に満ちている。月曜の閉館時間間近、人もまばらな中でその一画を、説明文を追いかけながら歩く。

閉館時間になると「蛍の光」の原曲である「Auld Lang Syne」が流れて、なんかどこも同じなのだなあと思いながら、雨のなか美術館を後にする。
17時半にレストランを予約しているので向かう。美術館からは東に更に20分ほど歩いた。途中で通過したかっこいい建物、なんだろうと思っていたけど、美術館の新館らしい。しかも日本人建築家によるものだそう。窓越しに何かのワークショップをやっているのが見えた。できれば中に入りたかった。心残りである。
レストラン付近に着いたので開店時間まで、Potts Point Bookshopという小さめの本屋で雨宿りをする。日本でこのサイズ感の街の本屋と言うとどうしても雑誌やビジネス書が多くて近寄りがたさを感じてしまうのだが、この本屋には代わりに旅行ガイドやレシピ本が沢山。レジの前にはトーリ・ピーターズの新作『Stag Dance』がサイン入りで平積みされてあった。初めて聞いた作家だったが、表紙にはミランダ・ジュライの推薦コメント、裏表紙にはカルメン・マリア・マチャドからのコメントと錚々たるメンツ(そして私の大好きなメンツ)に愛される作家らしい。今年8月には初となる邦訳が出版されるそうなので、ぜひ購入して読んでみたいと思う。
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愛想のいい店員さんに「ありがとうございました」して、The Apollo Restraurantへ。パートナーとの共通の知人に教えてもらったギリシャ料理店、実は分店が銀座にもあるらしいのだが、せっかくなので訪れてみた。
パートナーはちゃっかりしっかりリサーチ済みらしく「Googleマップのレビューでよく見るこれを注文したい」と指さしたのが、Saganaki cheeseという聞いたことのない料理。聞いたことないなりに私はチーズが大好物なので、二つ返事で注文。その他、タコのグリルとレタスとチーズ(またチーズ!)のサラダを注文。まだ17時半と早目だったので軽めの食事に。
パートナーが「これじゃ少ないですかね?」とスタッフに聞いて「かなり軽めの食事になりますね」と言われたのだけど、私はそれ以上食べ切れる気がしなかったので「not too hungryなので大丈夫です」と伝える。そんな表現初めて使ったのだけど、それが適切であったのかどうか分からない。でもなんかそういうのが口からパッと出てきて嬉しい。
そして届いたSaganaki cheese。揚げ焼きにされた羊と山羊のチーズが、ハチミツ、レモンジュース、オレガノと共にスキレットに乗った食べ物。なんだか見た目はアヒージョっぽさもある(鉄板の上に、汁と具があるため)。食感や味は限りなく、朝食べたハルーミチーズに似ているのだが、なにやら比にならないくらいうまい。キュッキュッという食感が本当においしい。サラダは丸っと4分の1のレタスの上にシュレッドチーズがこれでもか〜というほど乗っかっている。贅沢。

今夜は遂にオペラハウスでAnohni and the Johnsonsのコンサート。雨も強いので、この旅で初めてUberを使ってみた。乗車してすぐ、Uberの運転手に「名前、中国語で書いてあったらあんたが男か女かもわかんないよ」と言われる。自分は咄嗟に謝ってしまったのだけど、パートナーは釈然としない表情。「いや、中国語じゃなくて日本語で」とかなんとか言っている。郷に入れば郷に従えとも言うが、確かに英語を母語とするものたちの驕りでもあろう。この場合はなんとも言えない気もしますが。
そうこうしている間にオペラハウス到着。何しろ今回の旅のメインイベントである。パートナーも自分もオフィシャルストアで販売されていたAnohniのTシャツが欲しかったのだが、30分前に着いてもすでに売り切れ。見込みが甘かった!代わりに今回のライブ限定のTシャツを買う。デザインもあまり好みでないけど記念に…7,700円(うわーん)。

「Mourning Great Barrier Reef」と銘打たれたこの特別なコンサートに向けて、Anohniは約1ヶ月間オーストラリア西部に滞在、現地の海洋学者たちとグレートバリアリーフの環境についてフィールドワークを続けてきた。ニューヨークでBlacklipsというコレクティブを立ち上げた当初から、彼女はずっとアクティビストであり続けてきたし、常に自分の足で行動することを忘れない人でい続けている。
これまで彼女の曲はAnohniと改名したあとの楽曲をメインで聴いてきていたのだが、トランスジェンダーであることをカムアウトする前、Antony and the Johnsons時代の「You Are My Sister」「Hope There's Someone」といったアンセムの強度に驚かされた。それどころか彼女のその真摯な活動により、そのメッセージは更に深みを帯びている。
「あなたは私の姉妹/あなたを愛しているから/どうかその夢が叶いますように」(「You Are My Sister」)
この大きな大きな愛が『My Back Was a Bridge for You to Cross』(私の背中はあなたが渡るための橋だった)という最新アルバムにも繋がっていくのだろう。Anohniが「どうかあなたの夢が叶いますように」と歌うとき、もはや彼女は私たちと別の次元にいないように思える。しかし同時に、彼女の足はしっかりと地に着いていて、泥臭いほどの人間らしさと胆力を私たちに見せつける。
「私がこの世を去るとき/看取ってくれる人がいてほしい/私はどこへ行くのか/私の心を解き放してくれる人が/いてくれればいい/疲れたときはそっと抱いて」(「Hope There's Someone」)
彼女ほど愚直に泥臭くアクティヴィズムを継続し続けてきたアーティストを私は他に知らない。だが悲しいかな、だからこそ、その強さがゆえに彼女はほとんど人間とは思えないほどの神聖さを身に纏っていた。そんな彼女が今引用した言葉を歌うとき、それは聖人になってしまったもののカルマを感じさせ、またそれが心の琴線に触れる。アルバムのカバー写真にも採用した大野一雄に影響を受けたであろうコレオグラフィーにも涙が滲んだ。
近年のAnohniと言えば、「4 Degrees」や「Manta Ray」、そして今回の公演のために書き下ろされた「Rise」など地球環境についての楽曲も多い。もちろん自然への慈しみもあるはずだが、次の世代への彼女の暖かい眼差しと強い責任感がそうさせているように思う。それは「4 Degrees」では怒りに、「Manta Ray」では絶望に、「Rise」では弔いの形をそれぞれ取る。
開演前は「アノちゃんのモノマネ」とか言ってふざけていたパートナーだが、序盤から号泣。よかったね〜。
素晴らしいコンサートを見た後、興奮冷めやらぬまま、The Caterpillar Clubというミュージックバーに向かう。これもフォロワーさんが教えてくれた場所。ホテルを通り過ぎて歩くこと約7分、見えた店の前にはイケイケな若者たちが。怖い!Googleマップを見る限り、むしろ大人っぽい雰囲気のに見えたのだが、これから夜遊びにでも行くようなスタイルのグループたちが出入りしている。月曜の夜なのに。

勇気を出して階段を降りてみると、なんだあおしゃれなミュージックバーじゃないですが。ガキがよ。ハンバーガーなども美味そうだったが、お腹もいっぱいなので1杯だけ飲む。『クィア/QUEER』に出てきたココナッツのお酒を頼んでいたが、見つからず何やら別のココナッツベースのお酒を飲んでいた。なぜかここに来て海外にきた実感が湧いているらしい。最終日夜にして。私はビール。ジャズバーっぽい雰囲気にやや似つかわしくない激し目なブルースロックのライブミュージックを聞きながら、コンサートの感想などを話す。次の日は遅刻厳禁なので早めにホテルに戻って就寝。
5月27日(火)
この日は完全に移動日。
ホテルをバタバタと出て、コンタクトレンズも着けずに空港へ向かう。やっぱり市街地から空港まで近いのって最高ですね。数駅、通勤時間よりも短い時間で到着。
シドニー国際空港、特に国際便の出発ターミナルは存外にコンパクト。成田空港の第3ターミナルくらい小さい(体感では)。

フードコートに行くと何やら変わった作りのマクドナルドが。よくよく見てみると、1階が注文・提供のフロアで2階がキッチンのフロア、そこがベルトコンベアで繋がれており、注文した品は上から下へと運ばれてくる。完全に効率化、分業化されているのだ。クルーが非人間化されているような気もするし、注文した食糧が上から降りてくるなんてなんだか餌みたいである。一方で、2階のキッチンフロアはまだ英語が苦手な移民の働き口にもなっているのだろうなと想像すると、複雑な気持ちに。
普段は胃腸が弱め、旅行中にはもっと弱めな自分には珍しく腸内環境に悩まされることのなかった旅行ではあったが、ここに来てお腹が張って仕方ない。お手洗いとゲート前のソファーを往復。
搭乗を待つ間、ゲート前のソファがどれも食べカスだらけだと嘆くご婦人たちを見て、「ああ旅行が終わった」と思った。Aussieたちはね、食べカスくらいでギャーギャー言いません。カツヤも、食べカスくらい、気にしません!
機内では友人が絶賛していた『私たちが光と想うすべて』を観るも、開始数分で「いや、これは機内じゃなくて大きなスクリーンで観たいぞ」という気持ちになり、目を閉じる。そもそも疲れていて映画どころではなかったのだった。
10時間半のフライト、帰り道は旅行のワクワクもないし長いのだろうなと思っていたが、うつらうつらしていたら案外すぐだった。飛行機って乗っていると時間の感覚が歪む感じがあって楽しい。
短い短い2日半の旅行、過ぎてしまえばすぐまた元の生活に元通りではあるが、短い間にできることはすべてした。これからの人生でまたシドニーを訪れることがあるのかは分からないが、少なくとも私はこんな場所でこんなことをして、こんなことを考えましたよ、ということを自分のために残せていたらいいなと思う。